夏越の大祓とは
大祓(おおはらえ)と呼ばれるお祭りは、毎年6月30日と12月31日の年2回行われ、そのうち、6月30日に行われるものを「夏越(なごし)の大祓」といいます。
この神事は、半年間のうちに蓄積したツミ・ケガレを祓い清めることを目的としています。
地域の神社でも行われ、一般の方も参加できる間口の広い祭祀ですので、「神事」に敷居の高さを感じておられる方も、ぜひ気軽に参加してみてはいかがでしょうか。
今回はそんな夏越の大祓について、詳しくご説明していきますね。
夏越の大祓では何が行われる?
神社によって違いはあるかと思いますが、多くの神社では、以下の5つの神事が行われています。
① 祝詞の読みあげ
② 裂布(れっぷ、さきぬの)による清め
③ 切麻(きりぬさ)による清め
④ 人形(ひとがた)による清め
⑤ 茅(ち)の輪くぐりによる清め
では、この5つをそれぞれご説明しますね。
①祝詞の読みあげ
夏越の大祓で読みあげられるのは、「大祓詞(おおはらえことば)」という祝詞です。
この祝詞は、知らず知らずに犯しているツミやケガレを祓い、これから犯してしまうツミを未然に取り除くものと考えられています。
神職の方が読みあげることもあれば、神社によっては参拝者にも大祓詞の全文が配られ、全員で読みあげるというところもあります。
聞いているだけでも気持ちよく、心清らかになりますし、ご自身で読みあげられるとさらに爽やかな気持ちになられるのではと思います。
【補足】ツミとは?
大祓詞の中には、『天つ罪 国つ罪 許許太久(ここだく)の罪出でむ』という文言があります。
本来この部分は、以下のようにさらに細分化されていました。
『天つ罪と 畦放 溝埋 樋放 頻播 串刺 生剥 逆剥 糞戸 許多の罪を天つ罪と法り別けて 国つ罪と 生膚断 死膚断 白人 胡久美 おのが母犯せる罪 おのが子犯せる罪 母と子と犯せる罪 子と母と犯せる罪 畜犯せる罪 昆ふ虫の災 高つ鳥の災 畜仆し蟲物する罪 許多の罪出でむ』
このように、細かく罪名が並べられていたのですが、現在は省略されています。
天つ罪と国つ罪。それぞれの解釈には諸説ありますが、天つ罪とは天界でスサノオノミコトが犯した罪のことをいい、農耕を妨害するような行為が多く含まれています。
国つ罪とは、人の体を傷つけることや呪うこと、病、天災などが含まれ、現在でも犯罪行為とみなされるようなものも多く含まれます。
現代に則ってお話をするのであれば、罪を犯す気のない人でも、誤って自動車事故を起こすこともあれば、人にひどいことを言ってしまうこともありますよね。
そのようなツミ・ケガレを祓うために、大祓詞を読みあげ、神様にお祈りをするのが、夏越の大祓という神事です。
②裂布(れっぷ、さきぬの)による清め
大祓詞には、以下のような文言があります。
『天つ菅麻(すがそ)を本刈り断ち 末刈り切りて 八針(やはり)に取り辟(さ)きて』
この節を模したといわれているのが、「裂布」の儀式です。
白布を八つに裂くという儀式を通して祓いを行う儀式となります。
③切麻(きりぬさ)による清め
切麻は、和紙と麻の繊維を混ぜたもので、祓いの道具の一つです。
大祓以外の神事でも、場の清めや邪気を祓うときに使われます。
たとえば、車のお祓いでは、車に切麻をまきますし、場の浄化にも使われています。
夏越の大祓では、この切麻を使った「自祓(じばらい)」を行うことがよくあります。
事前に切麻の入った袋が一人ひとりに渡され、神職の方の指示に従って、自分で自分の心身のケガレを祓うのです。
「祓いたまえ 清めたまえ」と唱えてから清める。左肩、右肩、左肩の順番に清める。など、やり方はご指示があるかと思いますので、その場で伺うのが一番よいかと思います。
④人形(ひとがた)による清め
夏越の大祓の日にどうしても参拝できないという人でも、清めを受けられる方法が、「人形」による清めです。
6月頃に神社へ行かれますと、この「人形」なるものを境内に置いてあるところがよく見受けられます。
人形とは、人形に切り取った紙のことで、この紙にツミやケガレを写し取ることで、ツミ・ケガレを祓い清めることができます。
人形にはご自身の名前と年齢を書き、ツミ・ケガレを写し取るように人形を体に触れさせ、「ふ、ふ、ふ」と三度息を吹きかけます。
当日、参拝できるという方はもちろん、その場で人形を作ることが可能です。
⑤茅(ち)の輪くぐりによる清め
6月になると、多くの神社では「茅の輪」と呼ばれる大きな輪が準備されます。
この輪をくぐることで祓い清められるという儀式なのですが、ただ、くぐるのではなく、8の字を描くように、左回り、右回り、左回りの順にくぐるという作法があります。
夏越の大祓に参加した場合は、神職を先頭に、全員で並んでずらずらとこの「茅の輪くぐり」をすることが多いのですが、事前に参拝される場合などには、ご自身でくぐることも可能です。
また、この輪をくぐるときに、和歌を詠むという風習もあります。
「水無月の 夏越の祓 する人は 千歳の命 延ぶといふなり」
「思ふこと みなつきねとて 麻の葉を 切りに切りても 祓ひつるかな」
「宮川の 清き流れに 禊せば 祈れることの 叶はぬはなし」
このような和歌を、一首詠んではくぐり、また一首詠んではくぐり、というようにされている神社もありますので、ぜひそれぞれの神社でのやり方に従って、夏越の大祓を楽しんでみてください。
【補足】蘇民将来(そみんしょうらい)のお話
この「茅の輪くぐり」という神事には、もととなったお話があります。
むかし、むかし、ある村に、巨旦将来(こたんしょうらい)と蘇民将来(そみんしょうらい)という兄弟がいました。
あるとき、村で一番りっぱな家に住んでいた巨旦将来のところへ、一人の旅人がやってきました。
身なりのひどく汚い旅人は、「どうか一晩、この家に泊めていただけませんか」とたずねますが、巨旦将来は「うちは貧しいから泊めてあげられないよ」と断りました。
旅人は次に、蘇民将来の家をたずね、「どうか一晩、泊めていただけませんか」と請います。
蘇民将来の家は裕福ではなかったのですが、「どうぞ、汚い家ですが」と旅人を通し、できるかぎりのもてなしをして、見送りました。
幾年かが経ち、旅人はまた蘇民将来の家を訪ね、「一夜の恩のお返しがしたいが、子孫はおられるか」とたずねました。
蘇民将来が「妻子がおります」と答えると、「では、茅の輪を腰につけておきなさい」といいました。
それからすぐ、村を疫病が襲います。
蘇民将来の家の者はすべて助かりましたが、巨旦将来の家の者はすべて滅んでしまいました。
この旅人は、スサノオノミコトという神様でした。
スサノオノミコトは、「後世に疫病の流行ることがあれば、「蘇民将来の子孫」である証に、腰に茅の輪をつけなさい」といわれました。
諸説ありますが、このような蘇民将来のお話が、茅の輪くぐりのもととなっています。
また、神社によっては、蘇民将来の子孫であることを示すためのお札をお授けしたり、茅の輪のお守りを授与したりしていますので、お求めになられるのもいいでしょう。
まとめ
今回は、毎年6月30日に各地の神社で行われる「夏越の大祓」という神事について書かせていただきました。
ツミやケガレは塵芥(ちりあくた)のように、気付かぬうちに心身に溜めてしまうものです。
半年に一度の大祓を通じて、身も心もさっぱりと清め、また次の半年間を気持ちよくお過ごしいただけましたら幸いです。
文・写真/供TOMOチーム ライター 高梨和葉
【プロフィール】岩手県在住。学生の頃より10年以上、祈祷所や授与所にて巫女として助勤を経験。神社を身近に感じるとともに、神社や神道について強い関心を持つ。また、日本独自の文化である神道を主軸に地方に散見している民間信仰についても研究中。
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