采女神社が祀られている立地
采女神社は、奈良の興福寺の南にある猿沢池(さるさわいけ)の北西隅に祀られている、春日大社の境外末社です。
猿沢池を前景とした興福寺の五重塔の眺望は素晴らしく、猿沢池に立ち寄られる方も少なくありません。
↑ 猿沢池越しの興福寺五重塔
采女神社は普段は神社関係者の方もおられず、門も閉じられており、見落としがちな小さな神社です。
ただ注意して見ると、板塀と白壁の小屋に「えんむすび 采女神社」と大書された看板が掲げられており、ここが采女神社だと分かります。
↑ 「えんむすび 采女神社」の表示
神社には、多くの縁結びの絵馬も奉納されていますし、授与品として可愛い「縁結び守り」も用意されているようですが、後述する「采女祭」時以外には、不定期に開門されるため、中々そのタイミングに出くわすのは難しく、「幻の縁結び守り」と言えるほどです。
↑ 采女神社の全景
采女神社に纏わる伝承と、不思議な鳥居とお社の配置
「大和物語」には、采女神社の縁起について、以下の記述が残されています。
奈良時代に天皇の寵愛を受けていた天御門のある采女(後宮で天皇の給仕をする女官の職名)が、天皇の寵愛が衰えたことを嘆き、猿沢池の池畔の柳の木に衣を掛け、池に入水したとの事です。
この采女の霊を慰めるために建立されたのが、采女神社の始まりだとされています。悲恋の物語が縁起の采女神社が、なぜ縁結びの神社として信仰を集めるようになったのかは、少々疑問に思われます。
また采女神社の朱塗りの鳥居と奥にあるお社をじっくり見ると、その配置が不思議な事に気づきます。本来は鳥居を通してお社の正面が見えるはずですが、ここではお社が背を向けて建てられているのです。
↑ 鳥居の奥のお社が背を向けている
その理由は、普通に正面を向けて建てると、祀られている采女が、自分が入水した猿沢池を常に眺める向きとなり、それは余りにも忍びないだろうと、こうした配置にされているとのことです。
こんな小さな神社にも歴史を刻む逸話が残っていることに、奈良の奥深さを改めて感じさせられます。
采女神社の祭礼
采女神社では中秋の名月の日に、采女の霊を慰め、人々の幸せを願う「采女祭」が毎年執り行われています。
夕刻からは、「花扇奉納(はなおうぎほうのう)行列」が華やかに行われます。この行列は、2mもある花扇や、数十人の稚児、さらに御所車に乗った十二単姿の花扇使などで構成され、市内を練り歩きます。その後、18時から春日大社の神官による神事が執り行われ、花扇が奉納されます。
そして19時からは祭りのクライマックスとして、雅楽が流れる中、花扇や花扇使などを乗せた2隻の龍頭鷁首(りゅうとうげきしゅ)舟が、猿沢池に浮かべられた流し灯籠の間を縫って池を巡り、最後に花扇を池に投じます。これは「管絃船の儀(かんげんせんのぎ)」と呼ばれ、非常に雅な行事の様です。
2021年は、コロナ禍により「花扇奉納行列」と「管絃船の儀」は中止され、規模を縮小して神事のみが9月21,22日に執り行われました。
コロナが落ち着き、例年の「采女祭」が復活した際には、ぜひ見たいものだと思っています。
文・写真/供TOMOチーム ライター とっしー爺さん(大阪府在住)
采女神社の基本情報
名称 |
采女神社(うねめじんじゃ) |
所在地 |
〒630-8218 奈良県奈良市樽井町 |
連絡先 |
電話:0742-22-7788(春日大社) |
アクセス |
近鉄奈良駅から徒歩5分。JR奈良駅から徒歩15分。 |
公式サイト | https://narashikanko.or.jp/spot/shrine/uneme-jinja/ |
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